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第55話 遅れて芽生えた覚悟

Author: marimo
last update publish date: 2026-03-10 20:27:15

 夜の東京は、海外よりもずっと騒がしいはずなのに。

 九条ホールディングス最上階の執務室は、異様なほど静まり返っていた。

 玲司は、デスクに置かれたスマートフォンを、しばらく見つめたまま動けずにいた。

 画面に表示されているのは、一枚の写真。

 夜の街。

 レストランの前。

 綾乃と、神崎和真が並んで歩いている。

 距離が、近い。

 肩が触れ合いそうなほど。

 ――誰かが、隠し撮りしたものだ。

 送り主は、非通知。

 悪意を隠そうともしない。

(……もう、ここまで来ているのか)

 喉の奥が、ひどく乾いた。

 一条竜星との話は、すでについている。

 東亜リンクス商事の不正の構図も、すべて把握した。

 ――終わったはずだった。

 盤上の整理は、完璧だった。

 だが。

 守るべき“最重要の一点”だけが、

 音を立てて崩れ始めている。

 玲司は、背もたれに深く身を預け、目を閉じた。

 思い出すのは、ずっと昔のことだ。

 まだ、綾乃が“鷹宮の娘”として、財界の席に顔を出し始めたばかりの頃。

 誰よりも静かで、誰よりも周囲をよく見ていた。

 笑わないわけじゃない。

 ただ、感情を外に出さないだけ
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